この研究は、アフリカの難民が直面している「難民状態の長期化(Protracted Refugee Situations)」にかかわる諸問題を、難民の生活現場から理解することを目的としています。
「難民状態の長期化」への対処は、サハラ以南アフリカにおける難民問題の中心的な課題のひとつです。難民発生の原因となった紛争・戦争の多くは長期化しているし、政治・経済的基盤が脆弱なアフリカの国々は、難民の受け入れに消極的であるため、難民たちは帰郷することも、受け入れ国や第三国に再定住することも認められない。その結果、多くの難民が、国民国家の一員としての諸権利も付与されないまま、異郷の地に宙づりにされています。しかも、これまで難民とは「一時的な状態」として考えられてきたため、「緊急性の高い人道的支援」の対象にすぎませんでした。難民たちは、こうした苦境のなかで生活を再建することを長期にわたって余儀なくされてきました。こうした状況をうけて、「難民問題」を「長期的な視野に立った開発の問題」として捉える視点の必要性が指摘されています。
帰郷も、再定住を認める第三国の発見も難しいという現状から、「難民の移住先への定着の支援を通じた受け入れ国の開発プログラム(DLI: Development through Local Integration)」が注目されています。しかしながら、「難民の地域社会への統合」を実現するために、いかなる開発援助が必要とされるのかについては、いまだ明確な答えが出ていません。というのも、これまで『難民』とは「一時的な状態」として考えられていたために、「長期的な視野に立った開発」の対象として考えられてこなかったためです。
アフリカで長期にわたって難民生活を余儀なくされている人びとをとりまくこうした状況をうけて、この研究は、難民が居住する生活空間において、1)他の難民や地域社会の人びとと社会関係を構築し、2)故郷でおこなっていた文化的実践を継続・変更させ、3)文化や民族アイデンティティを変更する、といった実践を、困難な状況において生活を再編するための創造的な実践として評価し、その様態を解明することを目的としています。また研究成果を、難民の受け入れ国定住のために実施されるべき開発=発展計画を策定するために必要となる基礎的資料として関係機関に提供することも目的のひとつです。