2014年8月14日木曜日

研究室のサイトを公開しました!おもに徳島大学での教育活動と地域貢献活動にかかわる情報を掲載します。

http://refugee-africa.org/naitozemi/

2012年3月18日日曜日

研究テーマ③「漁業の産業化が漁民と自然の関係に与える影響に関する研究」


沖縄県の小離島・久高島を対象に、高度経済成長にともなう就労構造の変化や、漁撈技術の近代化、漁業の商業化といった、漁業をとりまく社会経済的な変化が、漁民と自然との関係にあたえる影響に関する調査・研究をおこなってきました。漁民を取り巻く社会経済的な変化にともない、伝統的な漁撈活動は『産業としての漁業』へとシフトしつつあります。『産業としての漁業』は1)機械化、2)設備投資額の増大、3)商品経済化などの特徴を備えた漁撈活動です。
漁撈民を対象にしたこれまでの人類学的研究においては、『産業としての漁業』は人-自然関係の『希薄化』をもたらすと理解されてきました。そこで本研究は沖縄県久高島においてUターンした若者たちによって実践される新たな漁撈活動の記述・分析を通じて『産業としての漁業』における人-自然関係を再検討しました。
沖縄県久高島では1980年代以降、伝統的な漁撈活動にかわり『産業としての漁業』が活発化し、それにともない多くの若者たちがUターンしていました。久高島における多くの地元の若者のUターンは『産業としての漁業』の導入によって可能となりました。Uターンした若者は、当初は自然環境についての知識や経験は浅かったものの、漁撈活動を継続するなかでそれらを獲得していました。また若者たちは利潤は少ないもののコストも少なく比較的安定した利益を得ることができる在来の漁撈活動に支えられつつ、経済的リスクをともなう試行錯誤を繰りかえすなかで、創意にみちた新たな漁法を構築していました。
すなわち、濃密な人-自然関係とは、目の前に広がる自然環境と、もてる技術、周囲の社会環境を統合して『いまここにいる自分』に最も適するような新たな自然との関係を探ろうとする人びとの姿勢のなかに立ち現れると考えています。

研究テーマ②「長期化難民の文化・社会・アイデンティティの再構築と開発に関する研究」


この研究は、アフリカの難民が直面している「難民状態の長期化(Protracted Refugee Situations)」にかかわる諸問題を、難民の生活現場から理解することを目的としています。
「難民状態の長期化」への対処は、サハラ以南アフリカにおける難民問題の中心的な課題のひとつです。難民発生の原因となった紛争・戦争の多くは長期化しているし、政治・経済的基盤が脆弱なアフリカの国々は、難民の受け入れに消極的であるため、難民たちは帰郷することも、受け入れ国や第三国に再定住することも認められない。その結果、多くの難民が、国民国家の一員としての諸権利も付与されないまま、異郷の地に宙づりにされています。しかも、これまで難民とは「一時的な状態」として考えられてきたため、「緊急性の高い人道的支援」の対象にすぎませんでした。難民たちは、こうした苦境のなかで生活を再建することを長期にわたって余儀なくされてきました。こうした状況をうけて、「難民問題」を「長期的な視野に立った開発の問題」として捉える視点の必要性が指摘されています。
帰郷も、再定住を認める第三国の発見も難しいという現状から、「難民の移住先への定着の支援を通じた受け入れ国の開発プログラム(DLI: Development through Local Integration)」が注目されています。しかしながら、「難民の地域社会への統合」を実現するために、いかなる開発援助が必要とされるのかについては、いまだ明確な答えが出ていません。というのも、これまで『難民』とは「一時的な状態」として考えられていたために、「長期的な視野に立った開発」の対象として考えられてこなかったためです。
アフリカで長期にわたって難民生活を余儀なくされている人びとをとりまくこうした状況をうけて、この研究は、難民が居住する生活空間において、1)他の難民や地域社会の人びとと社会関係を構築し、2)故郷でおこなっていた文化的実践を継続・変更させ、3)文化や民族アイデンティティを変更する、といった実践を、困難な状況において生活を再編するための創造的な実践として評価し、その様態を解明することを目的としています。また研究成果を、難民の受け入れ国定住のために実施されるべき開発=発展計画を策定するために必要となる基礎的資料として関係機関に提供することも目的のひとつです。

研究テーマ①「アフリカの牧畜社会における開発・移動性・アイデンティティに関する研究」


北ケニア地域は、国家形成の過程で辺境化されてきた歴史をもち、また、つよく乾燥しており旱魃が頻発する土地生産性が低い地域です。この地域に居住する人びとは、家畜を媒介にして利用可能なエネルギーを獲得する遊牧に依存してきました。これまで遊牧という生業は高い移動性の維持と相互扶助のネットワークによって維持されてきました。しかしながら、市場経済への統合、学校教育の普及、国家の司法・立法・行政システムへの包摂、開発計画の実施といった外部からの影響を受けるなかで、北ケニア牧畜社会の生業のあり方は再編されつつあります。本研究は、この地域の牧畜社会における生業の再編過程を総合的に解析し、今後の開発=発展の方向性を示すことを目的としています。
アリアールは、ウシ牧畜民サンブルとラクダ牧畜民レンディーレの共生関係のなかで形成された集団です。複数の民族や集団が離合集散する歴史をもつ北ケニア地域では、こうした複合的で重層的なアイデンティティをもつ集団の存在は一般的です。複数の民族の混成集団であるアリアールの遊牧生産は、父系親族だけではなく姻族および他の集団・他民族の成員との互酬的関係によって成立していました。こうした傾向は、開発プロジェクトの影響で形成された調査対象地の集落においてとくに顕著で、これまで町に住んでいたアリアールやレンディーレの世帯が牧畜セクターに再参画するための受け皿となっていました。また市場経済への統合は、小家畜(ヤギ・ヒツジ)の経済的価値を高めると同時に牧民同士の家畜の交換を活性化させていました。その一方で、牧畜民の定住化によって土地や水場といった資源の囲い込みが進行し、さらに近年の民族主義の台頭によって、これまでは複合的・重層的だった牧畜民のアイデンティティが固定化しつつあります。こうした傾向は、これまでアリアールの遊牧生産を支えてきた越境的な家畜の交換や遊牧的な移動、そして集落間の移住を制限する要因となっています。すなわち、牧畜社会の今後の開発=発展のためには、北ケニア牧畜社会の歴史的な展開のなかで形成された他集団との互酬的関係の維持が重要であると考えています。